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ドミノ・ピザが挑む「脱宅配」
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ピザーラの高付加価値戦略
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ピザハットのグローバル施策
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弁当業界との境界線が消える
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ピザは「国民食」になれるか
1. ドミノ・ピザが挑む「脱宅配」
2024年、大量閉店のニュースで話題となったドミノ・ピザジャパンが、今度は「ピザ弁当店」という新たな業態で反転攻勢に出た。東京都内の商業施設に開設したのは、宅配を行わずフードコート内で持ち帰り専用の小型店舗だ。メニューはピザの一片に副菜を加えた“ピザ弁当”を中心に構成され、ターゲットは忙しいランチタイムのビジネスパーソンや買い物客。価格もワンコインに近づけるなど、コストパフォーマンスを重視した。
ドミノは新型コロナウイルス下の“巣ごもり特需”により、一時は店舗数を爆発的に増やした。しかし外出機会の増加と宅配需要の減少で採算が悪化し、2023年末には全国で100店以上の閉店に踏み切った。今回の新業態は「日常利用」を促す狙いがあると同社は説明する。宅配からの脱却という大胆な戦略転換は、単なるリストラではなく、“日常食化”による再成長の布石と捉えるべきだ。
2. ピザーラの高付加価値戦略
ピザーラは国内で“高級ピザ”のポジションを確立し、安売り合戦とは一線を画す戦略をとっている。オリジナルトッピングの多様化、期間限定メニュー、テレビCMなどブランディングにも力を入れてきた。ドミノがコスト重視型にシフトする一方で、ピザーラは「特別な日に食べるご褒美ピザ」というイメージを堅持している。
また、デリバリーの他に、ECや冷凍ピザにも進出し、百貨店やスーパーでの取り扱いも拡大。家庭用需要と外食気分の中間を狙うハイブリッド戦略だ。昨今の健康志向にも対応し、低糖質クラストやビーガン対応などニッチな層も意識。客単価が高い分、数量で勝負しないスタンスは、今後の人手不足・物流コスト上昇の中で安定感をもたらす可能性がある。
3. ピザハットのグローバル施策
ピザハットはアメリカ発のグローバルブランドとして、国内でも着実なリブランディングを進めている。直近では「おひとりさまサイズ」や「スモールボックス」などの個食メニューを強化し、都市部でのランチ需要を取り込もうとしている。日本においてもテイクアウト専用店を増やし、持ち帰り需要に寄せた施策が目立つようになった。
さらに、KFCとの連携や海外でのトレンドを素早く取り入れる点は、他社にはない強み。たとえば韓国や中国で流行した“チーズたっぷり系”や“甘辛系”の味付けが、日本市場にもタイムリーに導入されている。グローバルなブランド力を背景に、価格帯・商品・販路の多様性で攻めるピザハットは、幅広い顧客層への対応力で生き残りを図る。
4. 弁当業界との境界線が消える
近年の外食・中食市場では、ピザチェーンと弁当チェーンの境界線があいまいになってきている。ドミノの「ピザ弁当」はまさにこの流れの象徴であり、ライバルとなるのはピザーラやピザハットだけでなく、「ほっともっと」「オリジン弁当」「本家かまどや」などの弁当チェーンも含まれる。
これらの弁当チェーンも多様化に取り組んでおり、たとえば「ほっともっと」は近年カレー専門業態や高級弁当を展開。「オリジン弁当」もカフェ型店舗を実験的に出店するなど、単なるお弁当提供にとどまらず、惣菜販売や軽食、イートイン対応まで守備範囲を広げている。
ピザ業界が日常食市場に進出する一方で、弁当業界は食の体験価値やライフスタイル提案へと踏み込んでいる。この交差点で新たな市場が生まれる可能性がある。
5. ピザは「国民食」になれるか
日本においてピザは依然として“特別感”のあるメニューであり、日常的な昼食や夕食としての定着度はカレーやラーメン、弁当と比べてまだ低い。しかし、今回のドミノのように価格・サイズ・提供形態を日常向けに最適化すれば、その可能性は大いにある。
特に今後、単身世帯の増加や共働き世帯の食事簡便化ニーズが加速する中で、「片手で食べられる」「短時間で買える」「少量でも満足できる」というピザの特徴は非常に有利だ。ピザ=パーティのイメージを脱却し、日常生活の一部へと変えていけるかが、業界の未来を左右する。
最終的に、“国民食”の地位を得るには、味や価格以上に「手軽さ」や「場所を選ばない提供力」が問われる。ドミノの試みは、その突破口となるかもしれない。