ピザは好きだ。でも「ピザについて語れ」と言われると、少し困る。
子どものころの誕生日、友達の家に集まったクリスマス、大学時代の深夜のノリ。
思い返すと、ピザはいつも“そこにあった”。
気取った食事でもなく、毎日食べるものでもないけれど、「今日はちょっと特別だね」と言えるような空気を連れてくる存在。
宅配ピザは、そんな不思議なポジションにずっといる。
そしてその立ち位置は、実は時代によって、少しずつ変わってきている。
昭和、平成、令和――30年ごとにピザの姿を追ってみると、
日本の暮らし方や楽しみ方の変化が、なんとなく見えてくる気がするのだ。
今回は、宅配ピザを「時代を映す鏡」として、昭和・平成・令和の三期に分けて、
ゆるく、でもちょっとだけ真面目にふり返ってみたいと思う。
昭和:ピザは「特別なごちそう」だった時代
昭和という時代、日本の食卓はまだまだ和食が中心だった。
ごはんと味噌汁、焼き魚に漬物。たまに出てくるハンバーグやオムライスは「洋食」と呼ばれ、どこかハレの料理だった。
そんな時代に登場したピザは、完全に“外国の食べ物”という印象だった。
アメリカ映画の中で若者たちが食べているあれ、という感覚。
最初にピザに出会ったのは、ファミレスかレストランか、それともホテルの洋食コーナーだったという人も多いかもしれない。
1980年代には、ピザハットやドミノ・ピザといった外資系ブランドが日本に上陸。
当時は「宅配してくれる食べ物」自体が珍しく、家でピザが食べられるというだけでちょっとした事件だった。
ピザ専用のボックスに入ってやってくる熱々のピザは、まさに“非日常のごちそう”。
価格もそれなりに高く、家族で頼むのは誕生日やお祝いごとが中心。
宅配ピザは、特別な日にしか登場しない、まさにハレの日の食事だった。
電話で注文するスタイル、折り込みチラシを見ながらメニューを選ぶドキドキ感。
「デリバリー」という言葉すら、まだ耳慣れなかった時代に、ピザはちょっとした未来の味を運んできた。
平成:ピザが「イベントの定番」に
平成に入ると、ピザは少しずつ「家庭にある非日常」から「日常の中のイベント」へと位置づけが変わっていく。
まず大きいのは、電話での宅配注文が当たり前になったこと。
チラシはポストに日常的に入り、メニューはどんどん多様化。
サイドメニューやドリンクとのセット販売、そして何よりも「クーポン文化」の到来が、ピザをグッと身近にした。
「Lサイズ1枚でコーラ1.5L無料」「2枚目半額」「お好きなトッピング2種無料」など、あの手この手のプロモーションで、ピザは“お得で楽しい”イメージを強めていった。
また、テレビCMでも印象的な演出が多かった。
パーティー感を全面に出したもの、学生ノリのわちゃわちゃ系、家族団らんを描いたものなど、「ピザ=楽しいイベント感」を感じさせるイメージ戦略が定着していく。
この頃から、「ピザ=誕生日」「ピザ=友達と集まるとき」という“イベント定番メニュー”としての地位が完成されたように思う。
コンビニや冷凍食品のピザも徐々に品質が上がってきたが、やっぱり「宅配ピザ」は“ちょっとした贅沢”のままだった。
価格帯も安くはなく、それでも「今日はピザにしようか」と言うと、どこか場の空気が盛り上がる。
平成は、ピザが“日常の中のイベント”として定着した時代だったのかもしれない。
令和:ピザの立ち位置が多様化
そして今、令和の時代。
宅配ピザの立ち位置はさらに多様化している。
まず、Uber Eatsや出前館といったフードデリバリーアプリの登場が大きい。
かつて「宅配=ピザ」というイメージが強かったが、今や寿司もラーメンも韓国料理も、何でもアプリで注文できる時代。
「ピザの独壇場」だった宅配ジャンルに、激しい競争が巻き起こっている。
その中で、ピザも変化を遂げてきた。
低価格路線のチェーンが増えた一方で、職人が焼く本格ナポリピザを冷凍配送するスタイルや、地域のピザ専門店がUberを通じて提供する形も増えてきた。
「1人用ピザ」「糖質オフピザ」「ヴィーガン対応」など、細かいニーズにも応えるようになり、ピザはもはや“みんなで食べる特別なもの”から“個人が自由に楽しむもの”に変わってきている。
また、SNSの存在も無視できない。
「映えるピザ」「断面がすごいチーズピザ」など、味だけでなく視覚的なインパクトも求められる中で、ピザはエンタメ性の高い料理として再評価されている。
令和のピザは、ひとことで言えば「自由でフラット」。
1人でも、特別な日じゃなくても、冷凍でも宅配でも、“好きなように楽しめる”存在になってきた。
結び:ピザはこれからも“ちょっと楽しい”象徴
宅配ピザは、特別で、ちょっと高くて、でも誰にとっても親しみのある存在だった。
昭和の「ごちそう」、平成の「イベント」、令和の「自由」。
時代ごとにその役割を変えながらも、どこかで「楽しい気分」に寄り添ってくれる不思議な料理。
きっとこれからもピザは、劇的な変化を遂げるわけではなく、
静かに私たちの“ちょっといい日”に寄り添い続けていくのだろう。
「ピザ頼もうか」と誰かが言うと、なんとなく空気がちょっとだけ明るくなる。
そんな魔法は、たぶん、これからも変わらない。