① まいばすけっと無双:都市の「食地図」が塗り替わっている
「うちの最寄り駅、まいばすが3軒ある」
そんな話が、もはや珍しくなくなった。
首都圏に住んでいれば、最近やたらと“赤い看板”を見かける機会が増えたと感じている人も多いだろう。
イオングループの小型スーパー「まいばすけっと」が、コンビニ跡地を中心に猛スピードで増殖しているのだ。
2025年2月時点で1200店舗超。これは下手なコンビニチェーンよりも店舗数が多い。
24時間営業ではないものの、朝7時〜夜11時まで営業し、生鮮も惣菜もそこそこ揃っていて、しかも安い。
もう「ちょっと食材が足りないからセブンに寄って……」という流れが変わりつつある。
今、“最寄りの店”の主役が、コンビニから小型スーパーに交代し始めている。
② セブンの牙城が崩れ始めた
実はこの流れに、最も危機感を覚えているのが「セブンイレブン」だ。
ある都内のセブン加盟店オーナーは、こう語る。
「正直、まいばすけっとが一番イヤなんです。近くにできると一番売上が落ちる。」
まいばすは、生鮮品を含む“簡易スーパー”である。
価格も安く、イオンのPB「トップバリュ」も使える。
コンビニの“なんとなく高い”イメージと比べて、財布に優しいという印象が強い。
しかも最近の利用者は、「サラダはコンビニ、野菜はまいばす」みたいな**“買い分け”**を自然にやっている。
利便性ではなく“機能性”で店を使い分けるという消費スタイルが、コンビニの優位性を確実に削り取っている。
③ 「とにかく近く」が正義になった
この現象の裏には、都市生活者の移動範囲の変化がある。
首都圏では、車を持っていても平日に使う人は少ない。
通勤も買い物も、徒歩+電車。
だからこそ「近い」ことが何よりも重要になっている。
高齢化、共働き、時短消費、すべての流れが
「とにかく近くで、そこそこ揃って、そこそこ安い」
という小型スーパーの存在を支持している。
まいばすけっとやマルエツプチは、まさにそのニーズにジャストミートした存在だ。
④ ピザ屋の立ち位置が変わってきた
さて――
この「近さ最強」時代において、ピザ屋はどうだろう?
ピザーラやドミノピザといった宅配ピザは、かつて“便利の象徴”だった。
電話一本で、焼きたてが届く。しかも大きくてボリュームがある。
家族のイベントや「今日は料理したくない」という日の救世主だった。
だが今、それ以上に手軽で、もっと安いものが近くにある。
しかもピザではなく、惣菜や弁当や寿司までが小型スーパーで手に入る。
ピザの“利便性”という武器が、どんどん削られていっているのだ。
それでも、個人経営のピザ店は増えている。
最近のトレンドは「薪窯ナポリピザをテイクアウト」や「カウンターでサクッと食べられる立ち飲みピザ」など、“体験型”のピザ店だ。
この流れが、逆にヒントになっている。
⑤ 惣菜ピザにはない“ピザ時間”の魅力
スーパーにもピザはある。
ただ、あれは「焼くだけ」「レンチンするだけ」のピザだ。
手軽さでは敵わない。
価格でもコンビニやスーパーの惣菜ピザが圧倒的に安い。
では、なぜ人はわざわざ宅配ピザを頼んだり、個人のピザ店に行ったりするのか?
それは、**“時間を過ごす価値”**が違うからだ。
ピザは本来、誰かと一緒に楽しむ食べ物である。
箱を開けた瞬間の匂い、焼きたてを手でちぎる感覚、みんなで囲む食卓。
これは、袋入りの惣菜ピザでは絶対に再現できない体験だ。
⑥ わざわざ行きたくなるピザ店の条件
だからこそ、今あらためて注目されているのが
「わざわざ行きたくなる」ピザ屋の存在感だ。
たとえ家から10分歩いた先にあるとしても――
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カウンターで焼きたてを食べられる
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小麦の香りが店先に漂ってる
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オーナーが「今日はこれが美味いよ」と言ってくれる
そんな店なら、「近さ」では勝てなくても、「気持ちよさ」で勝てる。
体験で差別化する飲食業の基本が、ピザ業界でも効いてきている。
宅配ピザもまた、“ただ届くだけ”ではなく、“焼きたて感・おいしさ”という方向で進化しないと埋もれてしまうかもしれない。
⑦ 「なんでもある」からこそ、“ない体験”が選ばれる
「どこにでもある」時代に、人は“わざわざ”を求める。
小型スーパーが近所の食のインフラになっていく今、
ピザは「それ以外の何か」を提供しないと、選ばれなくなる。
でも裏を返せば、「わざわざの価値」こそがピザの魅力でもあるのだ。
だから、今日もピザ屋は存在している。
スーパーの惣菜とは違う“時間”を売っているから。
🧁最後にひと言
今日の晩ごはん、家の前にあるスーパーでも、コンビニでも、なんでも揃う。
だけど――
「あえて5分遠くまで歩いて、ピザ屋に寄ってみる」
そんな選択が、ちょっといい日をつくるのかもしれない。