1. ドミノ・ピザの急成長と大量閉店の裏側
ドミノ・ピザは新型コロナウイルスの影響で宅配需要が急増した2020年から2023年にかけて、国内で約400店舗を新規開店した。しかし、2024年7月には80店舗の不採算店の閉店を決定し、さらに2025年には国内の2割に相当する172店舗を閉鎖する計画を発表した。この決定の背景には、巣ごもり需要が減少したことに加え、原材料費や人件費の上昇といったコスト面の負担が大きくなったことがある。
ドミノ・ピザの親会社である豪DPE(ドミノ・ピザ・エンタープライズ)は、「コロナ禍に急増した需要を背景に開業した店舗が、需要減少やコスト増の影響を受けている」と説明している。つまり、短期間での急成長戦略が、需要の平常化とコスト高の波に耐えられず、収益性を大幅に低下させたのだ。
2. 競争激化する宅配ピザ市場の現状
宅配ピザ業界はドミノ・ピザ、ピザーラ、ピザハットの大手3社が市場をけん引してきたが、近年は新規参入者による競争が激化している。特に、食品スーパーやコンビニエンスストアのピザ事業参入が大きな影響を与えている。
ディスカウントスーパーの「ドン・キホーテ」や「オーケー」、「ロピア」は店内調理のピザ販売を強化し、安価で高品質なピザを提供している。また、2024年8月にはセブン―イレブン・ジャパンが宅配ピザ市場に参入し、これまでの宅配ピザの概念を覆す可能性がある。低価格で手軽に購入できるピザが増えたことで、従来の宅配ピザの利用頻度が減少しているのは明らかだ。
3. 外資系チェーンの世界戦略とドミノの方向性
ドミノ・ピザは世界的に展開するグローバルブランドであり、各国の市場環境に応じた戦略を採用している。日本市場では「デリバリーのスピード」と「低価格戦略」を武器に急成長したが、海外市場では別のアプローチを取っている。
例えば、アメリカやヨーロッパでは、店舗のデジタル化を推進し、スマホアプリの利用促進や、AIを活用したオペレーションの効率化を進めている。また、インドや東南アジアではフランチャイズ展開を積極化し、ローカルに最適化したメニュー開発を行っている。
日本市場においても、ドミノ・ピザは「ピザ宅配30分以内の配送保証」や「持ち帰り半額」などの施策を強化してきたが、急拡大のツケとして不採算店が増えたことで、大幅な店舗整理を余儀なくされた。今後は、より効率的な店舗運営を図る方向へシフトする可能性が高い。
4. 宅配ピザ業界が取るべき生き残り戦略
宅配ピザ業界が競争を勝ち抜くためには、いくつかの戦略が求められる。
まず、高付加価値化の推進が鍵となる。例えば、プレミアム食材を使用した高価格帯のピザの提供や、健康志向のメニュー開発が挙げられる。すでに一部のチェーンでは、オーガニック素材やグルテンフリー生地を取り入れたピザを販売しており、こうした差別化がブランド価値の向上につながる。
次に、テクノロジーの活用が不可欠だ。AIやデータ分析を活用した需要予測、ドローンや自動運転車による配送の導入が進めば、コスト削減と顧客満足度の向上を両立できる。特に、ウーバーイーツや出前館といったフードデリバリーサービスとの提携強化も有効な戦略の一つだ。
さらに、サブスクリプション型のサービスも有望だ。月額定額制でピザを提供するモデルを導入することで、安定した収益基盤を確保しつつ、顧客のロイヤルティを高めることができる。
5. 未来の宅配ピザ市場とドミノ・ピザの行方
宅配ピザ市場は、今後も競争が激化することが予想される。特に、コンビニやスーパーの参入により、低価格帯の商品はますます拡充されるだろう。そのため、従来の宅配ピザチェーンは、利便性だけでなく、ブランド価値を高める戦略が不可欠となる。
ドミノ・ピザは、大量閉店を経て、より収益性の高い店舗運営に移行することで、日本市場での持続可能な成長を模索するだろう。AIや自動化技術を駆使したスマートオペレーションの導入や、新たなプロモーション戦略がカギを握る。
また、今後は単なる宅配ピザの枠を超え、総合的なフードデリバリー企業への転換も考えられる。例えば、ハンバーガーやパスタなど他のカテゴリーへ進出することで、より広い顧客層を獲得する道もある。
いずれにせよ、宅配ピザ業界は変革の時を迎えている。ドミノ・ピザをはじめとする各社が、どのような戦略でこの変化に対応するかが、今後の市場動向を大きく左右することになるだろう。