【1】「また値上げか」の日々と、“外食離れ”という静かな潮流
「値上げ疲れ」という言葉を、最近よく目にするようになった。
外食チェーンも例外ではなく、ラーメン、ハンバーガー、定食、ファミレス、寿司など、あらゆるジャンルで値上げが続く。
気づけば、外食に対して「ちょっと贅沢な行為」「財布と相談する行為」という心理的距離が生まれている。
実際、総務省の家計調査によれば、2024年の外食支出額はほぼ前年並みで推移しているものの、コロナ禍前の水準には戻り切れていない。
特に「飲酒を伴う外食」の減少が目立ち、家飲み文化の定着や、宴会離れの影響が色濃く残っている。
つまり、私たちは「外食は特別なもの」と再定義しつつあるのだ。
【2】宅配ピザ=“家で楽しむ外食”という存在
そんな中で、宅配ピザの立ち位置は少し特異だ。
レストランに行かずとも、熱々のピザを自宅で食べられる。大きな箱を開けた瞬間の香り、チーズのとろけ具合、好きなトッピング──。
宅配ピザはかねてより、“ハレの日のごちそう”として機能してきた。
誕生日やホームパーティ、金曜の夜、子どもとのご褒美ランチ──。
どこか外食的で、でも家で完結する。その中間的な立ち位置は、昔から一貫している。
それでも、価格の高さを理由に「しばらく頼んでないな」と感じる人も多いのではないか。
実際、いまの宅配ピザは、「本当に今これに3000円払えるか?」と、ふと立ち止まってしまう価格帯になってきている。
【3】宅配ピザの“値上げ”と価格の天井感
2024年現在、ピザーラ、ドミノ・ピザ、ピザハットなどの大手各社は、徐々に値上げを実施している。
価格は一見据え置きに見えても、サイズの縮小やトッピング量の微調整といった「実質値上げ」も含めると、消費者が感じる“値段の重さ”は明らかに増している。
たとえばMサイズピザ1枚+送料で3000円超というのは、外食に近い金額だ。
さらにクーポンやキャンペーンなしでは注文に踏み切りにくい価格設計になっている。
この「ちょっと高いよな…」という心理的ハードルは、宅配ピザの“外食性”を強調していると同時に、逆に「それなら普通に外食したほうがいいのでは?」という逆転の発想にもつながる。
【4】中食が進化する中で、宅配ピザの居場所が揺れる
中食とは、家庭で調理せずにすぐに食べられる惣菜や弁当、冷凍食品などを指す。
この中食市場は、今や外食を上回る勢いで拡大している。
高級コンビニおにぎり、冷凍パスタ、デパ地下の本格惣菜──。
「このクオリティでこの価格?」と思える商品が次々と登場し、冷凍技術やレシピ開発の進化で“家庭でも外食クオリティ”が当たり前になった。
宅配ピザは、その流れに飲み込まれる側面がある。
中食の進化によって、「ピザじゃなくても良くない?」という選択肢が増えた。
それでもなお、宅配ピザを選ぶ理由があるとすれば、価格以外の“体験価値”が問われているのだ。
【5】「外食=贅沢」時代における、ピザの新たな選択肢
いま、ピザチェーン各社は“贅沢感の再定義”を模索している。
ドミノ・ピザは「1枚買うと2枚無料」などボリューム訴求型キャンペーンを展開し、ピザーラは高品質トッピングやブランドコラボによる“特別感”で差別化を図る。
また、テイクアウト割の強化も進んでいる。
店舗まで足を運べば、同じピザが1000円以上安く買えるという構造は、「自分で取りに行く=中食に近づく」という印象を与える。
このように、宅配ピザは“中食化”へと少しずつ歩み寄っているとも言える。
宅配=高い、テイクアウト=安い、という価格の乖離感を調整する努力だ。
【6】「ピザ離れ」ではなく、「ピザの新しい楽しみ方」へ
「ピザ=贅沢品」という感覚が、再び強まっている。
だからといって、ピザそのものが嫌われているわけではない。
むしろ、「家でピザを食べたい」という需要はしっかり残っている。
その証拠に、冷凍ピザの市場が急成長している。
セブンプレミアムやイオンのプライベートブランド、さらには本格窯焼き風の冷凍ピザブランドなど、家庭で“焼きたてピザ”を再現できる商品が続々登場している。
フードデリバリー全盛の今、Uber Eatsや出前館でもピザ専門店が人気を集める。
一方で、「わざわざ頼まなくても、うちの冷凍庫にピザあるし」という感覚が一般化しつつあるのも事実だ。
【7】「外食とは何か」を問い直す時代のピザ
Yahoo!ニュースのこちらの記事でも指摘されているように、
外食の値上げが進む中、スーパーやコンビニなどの中食は進化し続けており、「節約と満足」の両立を求める人々に選ばれている。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/567ecd08bf44f3c890da68843f7007de14eac036
宅配ピザはそのちょうど狭間にある。
外食のようで中食のような、でもやっぱり「ピザを注文する」という行為はどこか“イベント感”がある。
いま私たちは、「どこで」「何を」「どういう気持ちで」食べるのかを常に問いながら、食べる行為を選んでいる。
価格ではなく、価値で選ぶ時代。
ピザには、価格以上の体験価値が求められているのだ。
【8】終わりに:「ピザ、久しぶりに頼んでみるか」と思える瞬間のために
ピザがますます贅沢品になってきたこの時代。
けれど、だからこそ「ピザを頼む」という行為は、ちょっとした自分へのギフトにもなり得る。
節約しつつ楽しみたい。だけど、たまには贅沢もしたい。
その“あいだ”にいる宅配ピザの存在は、これからもっと自由になっていいはずだ。
価格でも、手軽さでも、体験でもいい。
「今日はピザにしよう」と思える瞬間が、また日常に戻ってくることを願って。