① 導入:かつて宅配といえばピザだった
「宅配してもらえる料理」といえば、何を思い浮かべるだろう。
今でこそ、スマホを開けばラーメン、寿司、韓国料理、スイーツに至るまで何でも届く時代になったが、ほんの10年、いや5年前までは、「宅配=ピザ」だったと言っても過言ではない。
折り込みチラシを見ながら「今日はどこで頼む?」と話し、電話をかけて、届くのをワクワクしながら待つ。
そんな宅配の王道に君臨していたのが、他でもないピザだった。
しかし、令和の今。宅配ピザの立場は確実に変わってきている。
「ピザにする?」の裏には、数多の“ライバル”が存在する。
今回は、宅配ピザが直面する競争環境をふり返りつつ、ライバルたち――Uber Eats、冷凍ピザ、冷蔵パスタなど――との違いや存在意義を考えてみたい。
ピザの“王様”ポジションは、今どうなっているのか?
② ライバル①:Uber Eatsが変えた宅配の意味
まず、ピザの王国に乗り込んできた最大のライバルといえば、やはりUber Eatsだ。
Uberの登場は、「宅配」という行為の意味を根本から変えてしまった。
もともと限られた業種(ピザ、中華、寿司)だけだった宅配に、地域の飲食店がごく自然に参入できる仕組みを作り、「外食を自宅に持ち帰る」という新たな常識を定着させた。
これにより、「ピザか寿司か」の二択だった宅配メニューは、一気に多国籍&多彩に。
ラーメン、カレー、タイ料理、ベトナム料理、スイーツ専門店まで、選択肢は爆発的に広がった。
ユーザーの体験もガラリと変わった。
アプリで直感的に注文でき、配達状況がリアルタイムで確認できる安心感、そして何より「今日はあのお店のあのメニューを食べたい」という具体的なニーズに応えてくれる利便性。
この流れにより、**「ピザだから頼む」から「食べたいから頼む」**という動機の変化が起きた。
かつては“とりあえずピザ”だったのが、今は“ピザも選択肢のひとつ”にすぎない。
Uberの登場は、ピザの特別感を薄れさせただけでなく、宅配自体の主役を「料理」から「体験」へとシフトさせたとも言える。
③ ライバル②:冷凍ピザの急成長と家庭内革命
一方、ピザそのもののライバルとして無視できないのが、冷凍ピザの進化だ。
一昔前まで、冷凍ピザといえば、チーズが少なくて生地もパサパサ、どこか物足りない存在だった。
だが今では、スーパーや通販で手に入る冷凍ピザは、専門店に引けを取らないクオリティにまで進化している。
ナポリ風のもちもち生地、国産素材を使った高級感あるトッピング、そして焼きたてを再現する独自製法。
特に冷凍ピザ専門ブランドや、高級スーパーのPB商品などは、価格こそやや高めだが、**“宅配ピザを凌駕する”**という声も少なくない。
また、冷凍ピザの最大の強みは「ストックできること」。
思い立ったときにレンジやオーブンで温めればすぐ食べられる。
「今日ピザ頼む?」ではなく、「冷凍あるから焼く?」という選択肢が生まれた。
これは、宅配ピザにとっては脅威だ。
かつては“ピザ=特別な日”の代名詞だったのに、今では“家にあるから気軽に食べるもの”に変わりつつある。
つまり冷凍ピザは、家庭内にピザの居場所を作り直した存在とも言えるのだ。
④ ライバル③:冷蔵パスタ・チルド食品の台頭
もうひとつ、じわじわと宅配ピザのシェアを侵食しているのが、冷蔵パスタなどのチルド食品だ。
コンビニやスーパーで手に入るチルドパスタは、調理不要、価格は300〜500円台、味のクオリティも高い。
ボリュームもあり、種類も豊富。明太クリーム、カルボナーラ、ペペロンチーノ…選び放題だ。
しかも、ワンプレートで片付けもラク。ピザのように油で手が汚れない、箱を捨てる手間もない。
何より、一人分で完結する手軽さが、令和のライフスタイルにぴったりハマっている。
特に単身世帯やリモートワーク中心の生活では、「家で食べる=簡単・早い・コスパ良し」が重要になってきており、そうなると、**宅配ピザの“高い・時間がかかる・量が多い”**という特徴が逆にネックになることも。
チルド食品の進化は、ピザだけでなくあらゆる外食にとって、静かな革命と言えるだろう。
⑤ それでもピザが“消えない”理由
ここまでピザのライバルを並べてきたが、実は宅配ピザが完全に淘汰されたわけではない。
むしろ、一定の立ち位置をキープし続けているのが面白いところだ。
その理由のひとつは、「ピザには場を盛り上げる力がある」こと。
冷凍ピザはおいしい。チルドパスタは便利。Uber Eatsは多様。
でも、家族で囲む、友達とシェアする、誕生日に出てくる、という**“わかりやすいパーティ感”**を作れるのは、やっぱりピザだ。
丸い形、開けたときの香り、チーズがのびる瞬間――
料理そのものが、空気を少し楽しくしてくれる。
そして何より、「ピザ頼もうか?」という一言で、会話がちょっとだけ前向きになるあの感じ。
その“象徴的な力”は、冷凍にもアプリにもない、ピザ固有のものだ。
⑥ 結び:ピザは「選ばれないこともある王様」
宅配ピザは、今や絶対王者ではない。
たくさんのライバルに囲まれ、シェアは奪われ、特別感も薄れた。
でも、それでも消えていない。むしろ、**「選ばれない日があっても、たまに思い出される」**くらいの距離感が、今の時代にはちょうどいいのかもしれない。
Uberがある、冷凍もある、チルドもある。
でも、「なんとなくピザがいい日」は確かにあって、そういうときにちゃんと選ばれる安心感が、ピザにはある。
ピザはもう“王様”じゃないかもしれない。
けれど、「王様だったことがある存在」として、確かな存在感を放ち続けている。
そのポジションは、ちょっと切なく、でもなんだか頼もしい。